ある山のある里で暮らす、ソルトとシュガーのお話。
活発で何事にも好奇心旺盛なソルト、温厚でおとなしく内向的なシュガー。
ソルトとシュガはいつも一緒に過ごしていました。
ソルトの行動に周りはいつも驚き、シュガーはそんなソルトをやさしく見守っていました。
ソルトとシュガーの住処の側には大きな木が一本立っていました。 ソルトは木登りが得意でよくその木を登っていました。 それはそれは大きな木でしたので、ソルトは高い所を目指し何度も何度も登っていました。 ソルトが木に登ると、木に爪跡がつきます。 たくさんの跡をつけながら、いつかその木の一番てっぺんまで登ることがソルトの夢でした。
シュガーはいつも木の下でソルトを心配そうに見上げていました。 自分には出来ないことをやってのけるソルトををシュガーは尊敬していました。 シュガーの夢もまた、ソルトがてっぺんに辿り着くことでした。
ソルトは木登りの次に夢中になることが、知らない場所へ旅に行くことでした。 シュガーに留守を任せ、ソルトは行ったことのない地に旅に出てはシュガーに冒険話を語ります。
シュガーは自分が見たこともない世界の話をソルトから聞くのがとても大好きでした。 まるで自分もソルトと一緒にそこへ行って同じものを見たような気がしていたからです。 そしてソルトが話といっしょに持ち帰る様々なお土産もシュガーは楽しみでした。 シュガーが行くことのできない高い木の上にある木の実や遠くの地で育った草花。 どれもこれもシュガーには宝物で、大事にとっておくのです。
そんなある日、ソルトはいつものように旅に出かけました。 シュガーはいつも通り留守を守り、ソルトの帰りを待っていました。
しかしどうしてでしょう。
待っても待ってもソルトは帰って来ません。
シュガーは来る日も来る日も太陽が昇ると里の入り口まで行き
ソルトの姿が遠くの方から現れるのを太陽が沈むまで見ていました。 それでもソルトは戻って来ません。
そうして季節が変わり、ソルトが旅に出た同じ季節になりました。
そしてシュガーはようやくわかったのです。 ソルトはもうここへは戻って来ないのだと。
シュガーは何日も何日も泣き続けました。
大事にしまっておいたソルトからもらったたくさんの宝物たちも 花は枯れ、実は腐り、跡形もなくなっていました。
シュガーは泣きました。
泣いて泣いて、泣いていたら外の天気も同じように嵐になり ソルトがたくさんの爪跡をつけ登っていた、あの思い出の大きな木にカミナリが落ちて あんなに高く立っていた木が倒れてしましました。
ソルトとの思い出の木もなくなってしまった。
ソルトにもらった宝物ももう消えてしまった。
みんな無くなってしまった、何も残っていない。
たくさん泣いて季節がめぐったある日、シュガーは夢を見ました。 ソルトといっしょにこの里の家にいる夢です。 そこでは何も変わらないソルトとシュガーの日常がありました。 それはとても素晴らしい時間でした。
シュガーは目を覚まします。
やっぱりソルトはここにはいません。
ソルトとの思い出の木もなくなってしまった。 ソルトがくれた宝物もなくなってしまった。
けれど、気づいたのです。
ソルトと過ごした日々も、あの大きな木のことも、ソルトが話してくれた冒険の話も ソルトの笑顔・・・シュガーの中からはひとつもなくなっていないことを。
そしてそれはシュガーの周りの里のみんなも同じです。 みんなソルトのことを、ソルトのいた時のことを語ります。 ソルトはシュガーと、そしてみんなの中で変わらず存在しているのです。
そしてこれからも居続けるのです。
もうシュガーの目には涙はありません。 その変わりにシュガーが目を閉じるとソルトが笑いかけてくれます。 シュガーがソルトのことを大切に想えば想う程に、シュガーはソルトを近くに感じられます。 そうしてずっとずっと長い間シュガーはソルトといっしょにいられるでしょう。
おわり
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